ガラージュ完全版:治療の手引

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中の人目線・ガラージュ完全版振り返り

まずはガラージュ完全版公開2年、そしてオリジナル版公開25周年おめでとうございます。

クラファンの大成功、完全版となったシナリオ、そして新しくファンになった人たちの反応を見ていると、この作品が現代で産まれなおしたというのはある意味で必然だったのかな、とも思います。

 

さて、せっかくなのでテスターとしての体験からひとつ、印象深かったエピソードを振り返ってみます。

元々は完全版リリース2周年の時になんか書くかなぁと思ってたんですが、ネタを温めてる間に2024/3/25がオリジナル版25周年にあたるということを知り、ほなそっちのタイミングのがええやんと先延ばしにしていたら作場氏による実況配信なんていう絶対に無視できない企画が上がり、これは見届けてから公開せなアカンとなってこのタイミングまで公開がずれ込みました。すんまへん。

 

本題に入る前にまずは「お前誰やねん」というところから。

当サイトを作っている中の人は「Hi_Jin_San」名義で、アルファテスターのひとりとしてガラージュ完全版に携わっておりました。
(ちなみにアルファテスターはそもそも2人しかいませんでした)

ひと口にテスターといってもさまざまな段階のものがありますが、自分が携わったのはゲームとしてひととおりが出揃った状態から、ほぼブラックボックス状態でプレイをするというもの。
少々乱暴な言い方をすると「世界で一番最初にガラージュの初見プレイをする一般プレイヤー」です。
テストですので、もちろんバグ発見やらテキスト校正といったこともやりますが、求められた最大の役割は初見プレイの様子や、一切の忖度のない意見・感想を余すことなく伝えることでした。

 

というわけで、リリース前のおよそ3か月間ほど、頭のてっぺんまでガラージュにどっぷり漬かった日々を過ごしていました。
空き時間は寝ても覚めてもガラージュです。もちろんテスターとしての責務や、将来的に攻略サイトを作ろうといった下心もないとは言いませんが、気が付くとそんなことは関係なく「より深くこの世界を知りたい」と、純粋にのめりこんでいました。

全ルートの攻略、釣りや成果のコンプリート、チャプター毎に変化する会話の制覇など、おおよそゲームとしての部分はリリース前にしゃぶり尽くしたと自負していたのですが、これだけみっちりプレイしていたにも関わらず、先日の作場氏による実況配信で未読のセリフがあることに気づきました。
本当にとんでもないゲームです。

 

閑話休題。本題に入ります。

リリース前、作場氏のTwitterを追いかけていた方はこんなツイートを目にしていたかと思います。

この時の「決断」は、オリジナル版のクリアルート破棄の話です。
この話題はリリース後にも再度触れられており、↓のスレッドの前後を併せて読むとより理解が深まるかと思います。

実はガラージュ完全版は、完全版と銘打っているにも関わらず、オリジナル版のクリアルートは収録されていません。
かわりにオリジナル版の時点では諸々の事情により表現しきれなかった、本来あるべき姿の「終わり」が収録されている、というわけです。

ですが「テストプレイヤーの方にも相談をし」とあるように、実は初期の頃のテスト版には、オリジナル版のクリアルートがそのまま収録されていました。

実況配信等でオリジナル版のクリアルートを観たことがない方のために、どんなものかごく簡単に書いてみます。
※既にガラージュ完全版をプレイ済みの想定で書きます

 

オリジナル版にはチャプター10以降が存在しません。
つまり、チャプター9から直接エンディングに向かうことになります。

まず、ルート分岐に関係なく、チャプター8のラストのジュースと邂逅した時点ですんなりと「水門通路の鍵」を渡されます。
ジュースの部屋の左側にある鍵扉の開錠アイテムですね。先に進むとカゲに会いに行ってエンディングになるやつ。

完全版でならどのルートを選ぼうと、世界に始末をつけた後、最後の最後に手に入るものでした。
それが早々に手に入り、チャプター9の任意の時点で水門を開け、刻印石のくだりまで行けてしまうというのがオリジナル版のエンディングです。
何ならチャプター9開始早々、ジュースの部屋を出た直後に水門を開放し、カゲと会って脱出を叶えることも可能でした。
(一応、救済措置として最後に選択肢があり、開錠前の時点まで戻ることもできる)
(ちなみに引き返す選択肢を選ぶと「ダイジョウブ ユメハ マダ ミラレル…」みたいなことを言われます。これ結構好きでした)

ラストのカゲの手を取るまでのセリフも変わるのですが、このときのカゲの喋りは「ヒカリガ、ミチテクル…」みたいな感じですべてカタカナ表記になっています。
完全版の「僕はもう大丈夫」と比べると、お前全然大丈夫じゃないやろ、と思わざるを得ません。
もちろんパートナーとの最後のお別れのシーンもありません。

 

プレイ済みの方はわかるかと思いますが、チャプター10へ進むための条件は割と難解ですよね。
そして当たり前ですが、テスト時の初見プレイでは何の情報もないわけで、初回クリアは当然のごとくオリジナル版エンドへと突き進みました。

最初にオリジナル版エンドを見た時の感想はまさに「なんだこれは!」でした。
何したらエエのかわからんから、鍵開けて最後のカゲの手を取ってみた、あ、終わった?
ぐらいの本っっっ当に軽いノリです。

オリジナル版を決定的に「奇ゲー」「歪みゲー」たらしめている要素は、間違いなくこの唐突な終わりの存在だと思いました。
明確な終点を設けることなく、終わりの解釈を完全にプレイヤー側に委ねるというものは、物語の表現としては理解できますが、本来の「精神治療装置」の役割を果たせているのかと言われると、ちょっと納得はし難いかな…という。

 

このエンド単体であれば「そういうもの」として受け入れることも可能だったのかもしれません。
事実、オリジナル版は一定の支持を受けているわけですし。

しかし今回のものは「完全版」です。クリア済みの方はご存知の通り、自分の意志で、それぞれのやり方で世界を「終わらせる」ルートが用意されています。
新たに追加されたルートと並べると、オリジナル版の「なんとなく終わってしまった」ルートはある意味「究極のバッドエンド」なんじゃないかと。何かを成し得た実感なく、ガラージュの世界から目覚めてしまう。

 

オリジナル版ルートと追加分のルートをひとつクリアし、感想を伝えた数日後、オリジナル版ルート破棄についての相談が持ちかけられました。冒頭で紹介した作場氏のツイートのあたりですね。
あの唐突な終わり方とエンドクレジットを見せられたら、別の可能性、つまり追加ルートへ行く意欲が削がれるのでは…と。

 

個人的には前述したとおり、バッドエンドとして解釈するなら割とアリなんですが、それもあくまで追加ルートを見たうえでの解釈です。
追加ルートにたどり着けなければ、おそらくは自分の初見プレイのように「なんだこれは!」といった感想を抱いて終わってしまうでしょう。
ネタバレなしで、マルチエンディングということを知らずにプレイしていれば尚更です。

そもそもSmokymonkeyS視点での振り返り記事に、作場氏からの要望として「ガラージュの物語をオリジナルのまま完結させずに続きのパートを追加したい」「少なくとも物語に関しては本来あるべきかたちをつくってきちんと終わらせたい」とあるとおり、オリジナル版の結末自体が不完全なものです。
もちろん制約の中での最高の着地点にはなってはいると思いますが(なので作場氏も「あれはあれで気に入っている」と述べている)、そもそも作品全体を通して不完全燃焼という前提があるので…

納得のいかなかったものを、わざわざ完全版と銘打っているものに入れる必要はないのでは?
テスター間でも満場一致(といっても2人しかいませんが)で「別になくてもええやろ」という結論に。

 

こうして紆余曲折あった結果、オリジナル版ルートはオリジナル版だけのものとなり、完全版には「終わり」だけが収録されることとなりました。
完全版で脱出を遂げた方の感想をいろいろと読んでいると、すくなくともこの決断は間違いではなかった、そう思います。

ここまで読んでオリジナル版の終わりに興味が湧いた方は、ぜひオリジナル版(もしくは私家版)の実況動画を探してみてください。

 

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